Time and Space

多趣味なオタクがいろんなことを書いていく

「二度目の夏、二度と会えない君」感想

先日書店で気になって買って読んでみましたので感想を


何というかこの作品の倫理観が受け入れられませんでした。

簡単な内容説明

主人公(智)が不治の病のヒロイン(憐)に最後言ってはいけないことを言ってしまいヒロインは結局、幸せに死ぬことが出来ず、憐が智に遺した遺書には「ごめんなさい」とだけ書かれていた。
智は激しく後悔し数ヶ月引きこもりの状態となってしまう。
ある時出掛けた智は憐の歌声が聞こえたような気がして、声が聞こえる方に足を踏み出し滑らせ、転がり落ちてしまう。
意識が遠のき、目を覚ますと目の前には、死んだ筈の憐がいた。


はい、んで智は最後、憐に何を語りかけたのか?
次はそこを引用して説明しましょう。

「あたし、智君に、みんなに会えてよかったよ。たった3カ月だったけれど、一生分楽しかった。ねえ、智君。これね、最後のわがままなんだけど… バンド、続けて。前を向いて頑張って。そうしてくれると、あたしは嬉しい」

智(無理だ。燐の代わりなんて見つからない)

いろんな考えが頭をよぎり、混乱した智はたった一つの気持ちを燐に伝えた。

智「俺は、お前が好きだよ…ずっと好きだった。ずっと一緒にいたいと思ってた。だから…」

智は言葉に詰まって燐の顔を見上げる。すると…

泣き出しそうな燐の顔には、はっきりとした非難の表情が張り付いていた。

燐「なんで、そんなこと言うの…私は、君やみんなのこと仲間として大切に思っていて…そんなこと言われても迷惑だし…なんでこんなこと私に言わせるの!」

燐「出てってよ」

燐の声は恐ろしいほどに低かった。

智「ごめん、燐。燐がそんなに嫌がるなんて…」

燐「出てって!」

智は逃げるようにして家に帰った。
世の中には伝えてはいけない気持ちもあるのだ…


えーと…何の冗談ですかね?
まず状況として、智くんは憐のことが好きで、だからこそその気持ちを憐に決死の覚悟で伝えたわけですよね?

憐にはもう余命が残されていないから、せめて自分の気持ちを伝えておきたかったから…

なのにまるで智の告白が大罪であるかのような追いつめ方は何なんでしょうか?
「世の中には伝えてはいけない気持ちもあるのだ」という文章もちゃんちゃらおかしいです。恋愛感情なんて普通は誰でも抱くものであり、それを告白するのは人間が当たり前として行うことなんですよ。
これじゃあまるで「人を好きになることは罪」って言ってるようなもんじゃないですか。

100歩譲って智の告白に非があったにせよ、普通はそれを優しく包み込んであげるのが一番良いんですよ。
人が死んで辛いのは本人だけではなくその周辺の人たちも例外ではないのです。
いくら告白が不本意だったとは言えど自分の悲しみを露にして他人まで悲しくさせるってのは不味いんじゃないですか?

それに憐が智の告白を激しく拒否した理由って「自分は仲間として好きだったのに、智が自分に恋愛感情を抱いているのが嫌だった」という凄く身勝手な理由で全く感情移入出来ません。

何より最大の問題は、これらの描写が全てヒロイン視点でしか作られておらず、主人公の気持ちが一切考慮されていないことです

「世の中には伝えてはいけない気持ちもある」をテーマとして据えたいなら一人の視点ではなく、もっと広い視野をもって作劇に取り組むべきでしょう。ヒロインの悲哀を表現するために主人公が理不尽に追い詰められる正に「木を見て森を見ず」状態。

まぁこんなちゃんちゃらおかしい展開から物語が舵を切ってしまった為にその後の展開もイマイチ乗りにくい。
過去に戻った智は「好きだという気持ちを伝えない」為に行動するんですが、そもそもこんな後ろ向きな目的のために動かれても何だかなぁという気はしますし、何より智君は何も悪くないですからね。
物語が全ての罪を智君に着せた状態で物語は進んでいくのでやはり引っ掛かりがあります。

あとはやっぱり憐の描写ですね。過去に戻った状態から憐は本格的に掘り下げられるので「告白されて理不尽に激昂した憐」を既に見てしまった状態では、彼女の明るさはイマイチ響くものにはなりませんでした。
あとその描写を見ても憐は明らかに智に好意を持ってて、「じゃあ何であの時あんなに怒ったんだよ!」と突っ込んでしまいました。

これは「作者が意図してやっていること」なのか「ただ単にそこら辺何も考えずに書いた」のかはさだかではありませんが、ただひとつ言えるのは「人物描写が致命的に下手糞」ってことですかね

ラストは智くんは「好きだという気持ちを伝えない」というやったことは物凄く後ろ向きであるにも関わらず、作品が妙に前向きかのように物語を締め括ってしまった為に上手く纏まらなかった気もしますし…

智は好きだという気持ちを憐に伝えず、憐はそのまま幸せに死んで、最初は「ごめんなさい」と書かれていた遺書が「私もきっと智くんと同じ気持ちだったよ」という言葉に変わっていたという前向きに見せ掛け実際は妙にしみったれたラストでお茶を濁された感じは否めません。

正直、あの遺書でますます憐というキャラが何だったのか分からなくなりました。

憐は智を仲間として好きだったのか異性として好きだったのかは分からないというオチは演出として狙ったんでしょうが、それにしてはキャラクターがブレすぎましたね。

結局こんな本末転倒かつ支離滅裂な物語になるくらいだったら「憐に結局最期まで伝えられなかった気持ちを伝えに過去に戻り、そこから好きだという気持ちを少しずつ深めて最後に告白し憐は笑顔で死ぬ」という物語にした方がベタながらも王道で感動できた気がします。

取り敢えず今度から本を買うときはこんな地雷は二度と踏みたくないものです