Time and Space

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「この世界の片隅に」感想

いやあ素晴らしい作品でした。

こういう所謂「戦争モノ」の映画って戦争の悲惨さを伝えるために、やたらと暗さを全面に押し出すのが多くて、それもあってグッと乗っていけないイメージだったんですが、この作品は見事にそれを払拭させたと言えるでしょう。


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この映画の趣旨って「戦争」を描くことではなく、「戦争下の日常」を描くのが目的だったんだろうと思います。
思想や政治といった「大きな世界」が変革して動いていっても、すずちゃん達の生きる日常である「小さな世界」は変わらない。
綿密な風景描写による敗戦前の色彩と敗戦後の焦土により伝わる戦争の重さ、そして敗戦を一番悔しがったのはそれまで必死に懸命に頑張ってきたすずちゃんであるということ…
必死に頑張ってきたからこそ、最終的に報われなかったことを嘆いているのです。
こういった現実の非情さが「戦争の不条理」を象徴しています。

主人公のすずちゃんは本当に健気な普通の女の子で、見知らぬところに嫁入りになっても、一生懸命に頑張り、そこで愛を育んでいくといった「当時の女性」そのものなんですよ

絵を描くことが好きで不発弾により右手を失って、絵が描けなくなったとき、挫けそうになっても自分の今いる日常がどれだけ幸せなものであるかに気付き立ち直る訳です。

健気で底抜けに明るいからこそ、苦悩にも重みが生まれるし、日常の幸せや得られたものの温かさを自覚し立ち直っていく姿は、本当に儚く健気で泣けてきます。

ラストでは行き場を失った男の子に懐かれ、子供のいなかった夫婦の養子として迎え、三世代揃って一家団欒する様子が描かれ、この作品は幕を閉じます。

「現実と虚構」「喪失と創造」といったテーマと丹念に描き、失ったものの悲痛さを得たものの大切をもって乗り越える前向きさに勇気を貰えました。



たこの作品は作画による映像美が素晴らしかったです。砂糖の配給が少なくなると人間が嘆いている横で、カブトムシが蜜を吸っている描写も皮肉が効いていて、そういった細かなフォローがこの作品を傑作たらしめています。
様々な世代に向けてお薦めの出来る素晴らしい作品でした。